BOTANIST Journal 植物と共に生きる。

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PEOPLE 01

ヴィーガンという選択肢が 個性を輝かせ、多様性を尊重する

アイスダンスの選手として、全日本選手権を二連覇している小松原美里さん。日本人としてはまだ珍しいヴィーガンアスリートとして輝く彼女に、ヴィーガン食を始めたきっかけや効果、自らの選択によって個性を磨く秘訣について伺いました。

夫婦としてパートナーとしても多様な価値観を認めて共生

小松原さんが、ご主人であり競技パートナーでもあるティム・コレトさんと出会ったのが2016年。翌年には結婚され、現在は二人三脚でアイスダンス日本代表として2022年冬季オリンピックへの出場を目指しています。

公私ともに相性の良さが感じられるお二人ですが、食事に関しては小松原さんがヴィーガン食、ティムさんは普通にお肉も食べているということ。「ヴィーガンとそうでない夫婦というだけではなく、スケーターとしても痩せないといけない私と、パワーを付けないといけない彼とでは求められていることが異なります。それ以前に育ってきた環境も違うので、わからないことがあるのも当たり前。お互いの価値観を尊重し、時には歩み寄りながら、共に目標に向かって頑張っています」
 スケートの練習や競技はもちろん、プライベートでもパートナーであるお二人。時には24時間何日も一緒にいることも多いですが、気分転換に岡山の町を散歩したり、それぞれの時間を過ごすなどバランスを取って、多様性を尊重し合う生活を送っているそうです。

ヴィーガン食を始めた当初は、小松原さんのご両親からも「可哀相」と理解を得られなかったそうですが、肉なし餃子を振る舞ったことを機に、工夫することでヴィーガン食もちゃんと美味しいんだとわかってもらえたのだとか。最近では、ティムさんも小松原さんの影響を受けて、ヴィーガンミートなどを始めているそうで、消化にパワーを使わないことから、リカバリーの早さを実感されています。

世界では個性のひとつとして受け入れられている

アスリートとして世界を飛び回り、現在も生活やトレーニングの拠点を日本とカナダの両方に置いている小松原さん。日本ではまだヴィーガンに対する理解の低さはもちろん、レストランやスーパーなどでもヴィーガン食に対応しているところが少ないと感じているそうです。

「海外ではヴィーガンは特別なものではなく、フルーツを食べる、肉は食べないが魚は食べるなど食事制限のあり方も多種多様で、ヴィーガンもそれらを含めた個性のひとつと認知されています。また、カナダでは動物に優しい日として週1回ヴィーガン食を食べるという人もいるんです」
 海外では、ヴィーガンは身体にベネフィットがあることを周知するテレビ番組が放送されていることもあり、周囲の認知が進んでいるのですが、日本では「お肉が食べれないなんて可哀相」などの偏見もまだ強く残っています。

日本人はファッションでも音楽でも、海外のものを取り入れるのが得意な人種です。それらと同じように、ヴィーガンも上手く取り入れられると思うんです」
 最近では、日本でも少しずつヴィーガン食に対応してくれるレストランも増えてきている印象なので、お店でバター抜きやエビ抜きなどに快く対応してくれそうです。

知識のなさから挫折も経験

小松原さんがヴィーガン食を始めたのは約3年前。イタリアでのスケート留学時に、子宮筋腫関連の病気を発症して手術を受けたことがきっかけでした。食事が直接の原因ではありませんでしたが、手術後に改めて食事の大切さを考えるようになったといいます。

「病気になるまでは普通にお肉を食べていました。幸いにも病気は良性でしたが、食事から変えたいと思って、流行り始めていたヴィーガン食にチャレンジしてみることにしました」

当時はヴィーガン食や野菜への知識が浅く、ただ野菜を食べればいいという認識でスタート。普段の生活では問題はありませんでしたが、トレーニング中にふらつきを感じてしまい3ヶ月で断念することに。「一番は知識の無さが原因でした。ただ、ヴィーガン食を採用していた時は、髪や肌の艶が良かったことを実感。アスリートとして印象的だったのが、スタミナ面やリカバリーの早さに効果を感じていました」

植物が与えてくれるパワーを実感

トレーニング時のふらつきによって一度はヴィーガン食を断念した小松原さんですが、ヴィーガン食での確かな効果を実感していたことから、しっかりとした知識を勉強しなおして、再度ヴィーガン食に戻すことに。

「私も始めた当時は誤解していたんですが、ただ野菜を食べればいいという訳ではありません。お肉を食べないことによるタンパク質の低下を、豆を食べることで補ったりなど、野菜それぞれの栄養分を理解しながら食事をすることが重要です。また、どうしても足りない栄養素に関してはサプリメントで補うことも必要だと思います」

自然に囲まれた岡山で幼少期を過ごした小松原さんは、雑草で薬草づくりをして遊んだり、野山を駆け回るなど、植物を身近に感じられる生活をされていました。スケート選手として世界を飛び回る日々が続いても、故郷である岡山の自然は今でも小松原さんの癒しスポット。

「植物が持つパワーって凄いと思うんです。ホールフードという考え方があって、自然の恵みを感じながら野菜を丸ごと全部食べると、メンタル面でもほっこり癒されます」

ヴィーガン食を採用して、メンタル面はもちろん、アスリートとしてのパフォーマンスも上がっているという小松原さん。地球に優しい生活を続けながら、アスリートとしても目標である冬季オリンピック出場を見据えています。

自らが選択することで魅力的な女性として自身を輝かせる

日本では特にヴィーガンアスリートは希少な存在だからこそ、小松原さんならではの表現や行動が注目を集めています。「アイスダンスの選手としては、個性がないと世界では埋もれてしまいます。トップレベルまで上り詰めた選手はみんな個性的で、お互いを認め合っているもの。人と違うことを選択すると、どうしても批判は避けられませんが、自分で選択したという自信が芽生えることで自らを輝かせ、魅力的な女性へと磨かれていくんだと信じています」

夢や目標をノートに綴ることで、なりたい自分像を見つける努力を続けてきたという小松原さん。2022年に出場を目指している冬季オリンピックへの思いも強くもたれています。

「2022年には29歳になりますが、初めて出場するオリンピックであったとしても、支えてくれている多くの関係者の皆さんのためにも順位だけでなく意義あるものにしたいと考えています。そして、ティムとパートナーを組んでまだ日が浅いので、その次の2026年のオリンピックも目指していきたいと思います」

アスリートとしてはまだ少ないヴィーガンという選択肢を自ら選んだ小松原さん。
周りとの違いも個性だと受け止めて、植物とともに生きることで、未来への輝きを増しています。

小松原さんのように自らの選択によって、人生は素敵に輝き出します。
自分で選択することで、あなたの未来にもきっと輝きをプラスしてくれることでしょう。

PROFILE

小松原 美里さん

1992年生まれ、岡山県出身、アイスダンス選手。2009-2010シーズンから全日本ジュニア選手権を3連覇し、国際大会でも活躍。2016年より、ティム・コレト選手と公私ともにパートナーを結成し、全日本フィギュアスケート選手権大会を二連覇中。日本人としてはまだ珍しいヴィーガンアスリートとしても輝いている。